
はじめに
DX(デジタルトランスフォーメーション)や自動化、設備の高度化、複雑化が急速に進展する現代において、設備管理・保全業務にはこれまでにない柔軟性、専門性を求められ、そのモノづくりにおける重要度はますます高まっています。
これらに対応し、変化に即応できる設備管理・保全体制の構築は、企業の競争力維持、ひいては存続を左右する喫緊の課題です。しかしながら、製造業、とくに設備管理・保全部門では人手不足が深刻化の一途です。設備管理・保全の担い手となる人材が不足する状況が続くと、生産活動の根幹を揺るがしかねません。
日本プラントメンテナンス協会では、会員企業の委員で構成される「技術委員会」にて、これらを喫緊の課題と捉えて議論を進め、製造業の持続的な成長と競争力強化を実現するために、あらためて設備管理・保全の重要性をまとめました。
<日本プラントメンテナンス協会・2024~2025年度 技術委員会 委員企業(50音順)>
◎旭化成株式会社/出光興産株式会社/サントリープロダクツ株式会社/株式会社デンソー/トヨタ自動車株式会社/株式会社豊田自動織機/日産自動車株式会社/日本製鉄株式会社/株式会社不二越
◎:委員長
経営・事業に貢献する設備管理・保全
(1)設備管理・保全と経営の関係性
製造業においては、設備の安定稼働は生産性、品質、納期、コストに直結します。なぜなら、設備起因のトラブル、停止、災害・事故は、製品の不良、納期遅延、顧客信頼の喪失、地域社会への負の影響など、致命的な損失をもたらし、その損失額は数百億円規模におよび、復旧費用や代替生産の手配にも追加コストが発生することがあるからです(図表―1)*。

図表―1 突発停止した際の損失額の内訳
(「製造設備の突発停止の実態と対策」アンケート,2025,八千代ソリューションズより)
それゆえに、設備管理・保全は単なる現場対応業務ではなく、安定稼働を支える「生命線」であり、ものづくりの根幹を成す機能として、企業経営に直結する極めて重要な活動です。設備管理・保全のあり方は、企業経営の成否を左右する重要な要素です。
一方で、設備管理・保全はしばしば「裏方」とされ、評価や認知度が低い傾向にあります。これは、成果がトラブル未然防止という「見えにくい形」であるためと考えられます。設備管理・保全の業務は、突発対応から予防保全、改善活動まで業務は広範で負荷も高いにもかかわらず、その実績が適切に評価される仕組みが十分に整っていない場合も見られます(図表―2、3)。

図表―2 負荷が高くなっている設備管理・保全業務
(「2024メンテナンス実態調査報告書」JIPM)

図表―3 設備管理・保全業務量の推移
(「メンテナンス実態調査報告書(2017~2022)」,2018~2023,JIPMより作成)
このように、設備管理・保全には経営にどのように寄与しているのかが問われます。経営に確実に貢献するには、高度な判断力・技術力を持つ人材が不可欠ですが、現状では人材が集まりにくいのが課題となります。
こうした状況を解決するには、経営(会社)が設備管理・保全の役割と成果を明確に認め、適切に評価することが不可欠です。この結果、適正な評価はモチベーション向上だけではなく、人材確保や育成にもつながり、ひいては企業の競争力強化に直結します。
さらに、近年の設備は高度化・複雑化が進んでいます。この変化に対応するには、設備管理・保全で蓄積した知見を設備の設計段階に織り込み、メンテナンス性やライフサイクルコスト(Life Cycle Cost)を改善する「MP(Maintenance Prevention)設計」が不可欠です。MP設計を導入することで、故障リスクの低減や保全作業の効率化、長期的なコスト削減が可能となり、投資対効果を最大化し、企業競争力を強化します。このMP設計に織り込む重要な知見と情報を提供できるのは設備管理・保全の機能に他なりません。
(2)KPIによる設備管理・保全成果の可視化
設備管理・保全成果を可視化するには、KPI(重要業績評価指標)の設定が有効です。KPIには「設備総合効率」「MTTR(Mean Time Between Failures)」「MTBF(Mean Time to Repair)」「保全費対売上比率」「予防保全率」などがありますが、それらに限りません。MP設計の活用もKPIの1つですが、最近、重点度が増加した設備管理・保全の重点施策を調査すると下位に位置しています(図表―4)。今後は、設備管理・保全履歴の情報化や設計への反映といったKPIの設定が期待されます。

図表―4 設備管理・保全の増加した重点施策
(「メンテナンス実態調査報告書」,2025,JIPM)
設備管理・保全の可視化は、単なる設備管理・保全コストの低減にとどまらず、製品競争力の強化にも直結します。
事業形態や拠点ごとに重視する指標も異なります。重要なのは、単にKPIを設定するのではなく、その指標をどのように活用し、設備管理・保全の価値を経営に対して説得力を持って発信することです。現場に近い設備管理・保全部門だからこそ、データに基づいた説明で設備管理・保全活動の成果を明確に示し、組織全体の意識改革につなげることが期待できます(詳細は「4. 達成感・評価:成果の可視化と社内評価制度、報酬・処遇」でも述べます)。
(3)リスクで考える最適な設備管理・保全
設備管理・保全は、本来、予防保全に代表されるように、設備起因のトラブルや故障、停止、災害・事故といったリスクを事前に把握し、コントロールするリスク管理そのものです。そのため、予算や人員を投入する意義は、まさにこれらのリスクを低減し、企業の損失回避と安定操業を実現する点にあります。
さらに、予算や人員に制約がある中で最適な設備管理・保全を行うためには、リスクアセスメント(RA)を基盤としたアプローチが不可欠です。RAによって設備の故障や劣化がもたらす影響を定量的に評価し、対策の優先順位を明確にすることで、経営資源を効果的に配分できます。逆に言えば、予算や人員を削ることは、リスクをそのまま受け入れることと表裏一体であり、トラブルの顕在化の可能性を高め、実際に重大損失を招く可能性も増大します。だからこそ、リスクに基づく設備・保全は、経営に対して合理的かつ説明可能な投資判断を支える重要な基盤となります(図表―5)。

図表―5 RA評価(例)
(4)設備管理・保全管理システムと経営戦略の連動
設備管理・保全活動を経営の一部として確実に位置付け、企業全体の競争力向上につなげるためには、設備管理・保全管理システムの導入と、それを軸とした体系的なマネジメントが不可欠です。
日本プラントメンテナンス協会は、設備のライフサイクル全体を見据えた設備管理・保全計画の立案から実行、そして評価に至る一連のプロセスを支援し、経営戦略と連動した設備管理・保全投資の意思決定を可能にする仕組みを提唱しています(図表―6)。

図表―6 経営と連動した保全活動のイメージ
この仕組みを導入し、継続的に運用することで、設備管理・保全の役割と価値が経営層と現場の双方で共有されやすくなり、企業全体の中での位置付けがより明確になります。その結果、設備管理・保全の重要性に対する理解が深まり、企業競争力の強化へとつながっていきます。
(5)サステナビリティ・レジリエンスへの設備管理・保全の寄与
設備管理・保全は、なによりも製造企業のサステナビリティの観点から極めて重要な役割を果たします。
モノづくり企業は、新技術開発・イノベーションを通じて新しい価値を創造し続け、社会・経済・環境的課題の解決に貢献しつつ、持続的に成長することが求められます。そのためには、足腰となる設備の高度化や高効率化・安定化が不可欠であり、これを牽引するのが設備管理・保全です。設備管理・保全による設備の安定稼働は、生産性(P)、品質(Q)、コスト(C)、納期(D)に大きく影響し、製造原価の低減や販売機会損失の防止につながります。さらに、設備の高経年化対策やエネルギー効率の向上にも直結します。
こうした役割を十分に果たすためには、単なる維持管理にとどまらず、設備管理・保全の体制を戦略的に構築し、進化・深化させることが不可欠です。設備管理・保全体制の高度化があるからこそ、モノづくりは持続可能性を高め、安定的かつ継続的な発展が可能となります。
また、自然災害やパンデミックなどの外的要因に対する迅速な復旧は、事業継続計画(BCP)の中核であり、企業のレジリエンス向上に不可欠です。