
世界の製造業は、IoTやビッグデータを活用した「製造強国」化へと急速に進んでいます。一方で日本は議論こそ盛んなものの、産業全体を動かす大きな流れにはなっていません。しかし、日本には職人技や現場改善力など、世界に誇る“無形の強み”があります。
これらをデジタル時代に最大限生かす鍵がDXであり、その前提として「現場の知恵による改善」と「後戻りしない標準化」が重要です。日本プラントメンテナンス協会の「生産革新実践プログラム」は、この考え方を体系化したもので、生産リードタイムの極限短縮=JITを目指して企業での実証成果をもとに生まれました。本稿では、このプログラムのエッセンスを8回にわたり解説します。
「人」の力を最大限に引き出す!
生産革新を実現する「展開5要素」の中でも、「人」は企業の基盤となる最も重要な要素です。「生産革新実践プログラム」では、「人」が生む付加価値の向上を目指し、TPS(トヨタ生産方式)における「標準作業」の徹底を重視します。第4回では、標準作業の定義から目的、具体的な帳票類、そして改善サイクルに至るまでを解説します(図表―1)。

図表―1 展開5要素「人」
標準作業とは何か? その3つの要素
標準作業とは、「人の動きを中心として、ムダのない順序で効率的な生産をするやり方」であり、「よい品質のものを、安全ではやく、つくるための最良のやり方」です。この標準作業は、以下の3つの要素から構成されています。
(1) タクトタイム(T.T:Takt-Time)
製品1台・部品1個を「売れるスピード」でつくる時間のことを指し、「日当たり稼動時間 ÷ 日当たり生産必要数」で求められます。タクトタイムが決定すると、その時間内で作業ができるように、1人当たりの作業量が決まります。作業者が1サイクルを行うのにかかる時間は「サイクルタイム:CT」と呼ばれます。
(2)作業順序
作業者が効率的に良品を生産できる作業の順序を明確にするものです。作業順序が不明確だと、各人が自己流で作業し、サイクルタイムのバラツキや加工忘れによる不良品の発生、機械破損といった問題を引き起こす可能性があります(図表―2)。

図表―2 作業順序
(3)標準手持ち
後工程への部品供給を維持し、ラインを停止させないために、工程と工程の間にある「必要最小限の仕掛品」を指します(図表―3)。

図表―3 標準手持ち
標準作業の目的と前提条件
標準作業の導入には、大きく2つの目的があります。
(1)つくり方のルールを明確化
だれがやっても同じ品質の製品を、同じ時間でつくれるように、作業手順と品質基準を明確にします。
(2)生産ラインの改善ツール
ムダやロスを発見し、改善するための具体的な指標として活用されます。また、標準作業を確立するためには、以下の前提条件が重要です。
① 作業の面
・だれが作業しても、ムラなく、ムリなく、ムダなく作業ができる状態であること
・設備が故障せずに安定稼働し、決められた生産量と品質が達成できる状態であること
② 品質面
・良品を安定して生産できる設備や工法の条件が確立されていること
標準作業を可視化する帳票類
標準作業を現場で運用し、改善活動を進めるために、さまざまな帳票類が用いられます。とくに「工程別能力表」「標準作業組合わせ票」「標準作業票」は、その中核をなすものです。(1)工程別能力表
各工程の生産能力を示すもので、日・直あたりの加工能力を表します。
手作業時間や自動送り時間、完成時間、刃具・砥石交換時間などを詳細に記入し、各設備で加工できる最大能力がわかります(図表―4)。

図表―4 工程別能力表
(2)標準作業組合わせ票
人の仕事と設備の仕事を時間軸で可視化したものです。
作業内容や時間(手作業、自動送り、歩行)、正味時間などを記載し、タクトタイムに対する作業者の動作を視覚的に把握できます。これにより、手待ち時間やムダを見付けやすくなります(図表―5)。

図表―5 標準作業組合わせ票
(3)標準作業票
作業者の作業範囲と導線を図示したもので、具体的な作業順序、標準手持ちの位置、品質チェックのポイント、安全注意などを記載します。これを見ることで、作業者が迷うことなく作業を進められます。また、1人一票が原則とされています(図表―6)。

図表―6 標準作業票
(4)その他(標準作業指導書、作業要領書)
① 標準作業指導書
監督者が作業を正確に指導するための基準であり、教え方の違いを防ぐ役割を持ちます。生産数量に見合った1人分の作業内容、安全や品質の急所などを具体的に明記します。
② 作業要領書
作業者への作業方法を示す指導書で、順守事項、カン・コツ、工具、保護具などを記載します。とくに作業の急所(成否・安全、やり易さ)とその理由を併記し、理解を促します。最近では、リスク評価を加味したものが推奨されています。
標準作業の3つのタイプ
標準作業は、工程や作業の特性に応じて以下の3つのタイプに分類されます。
(1)タイプⅠ
繰返し作業であり、タクトタイムが明確に設定されている工程(例:機械加工、組立(コンベア)、塗装など)。標準作業の3要素(T.T、作業順序、標準手持ち)を用いて繰返し作業が組める工程に適用され、標準作業票が活用されます。
(2)タイプⅡ
タイプⅠと同様に繰返し作業ですが、機種ごとに作業時間が異なり、タクトタイムが設定されている工程。作業の中心が腕の動きであるコンベア作業などに用いられ、山積み表(工程編成ボード)で作業者ごとの要素作業を可視化します。
(3)タイプⅢ
非繰返し作業であり、タクトタイムが設定できない工程(例:全自動ラインのライン外作業、運搬、段取り、検査)。山積み表(負荷表)を用いて、作業者ごとの1日の作業量を管理します。
標準作業の改善サイクル
標準作業は一度作成したら終わりではなく、継続的な改善が必要です。そのサイクルは以下の通りです。
① 改善ニーズの明確化
方針管理に基づき、改善の目標を設定します。
② 現状把握
現状の標準作業(これを表準(おもてじゅん)作業と呼びます)を詳細に把握します。
③ 問題の摘出(ムダやロスの発見)
現状ベースで、ムダや非効率な点、問題となる個所を特定します。
④ 原因追求
摘出された問題点の根本原因を追求します。
⑤ 改善
「人」「設備」「品質」の観点から具体的な改善策を実施します。
このサイクルを繰り返して、標準作業を進化させることで、生産性の向上だけでなく、人材育成や技能伝承にもつながります。生産管理者、監督者は、この標準作業を徹底し、異常発生時に「リリーフ(応援・救援)体制」を運用するなど、ラインを止めない工夫も求められます。
第5回に続く
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