
腐食の公表データ、正しいと鵜呑みにすべからず
機器の製作や補修を行う場合に、材料メーカや研究機関から公開されている腐食データを基に材料を選択する場合がある。
その際に、腐食データを正しいと信じ込むと、実機での耐食性の判断に誤りの生ずる場合がある。
例えば、図11)は硝酸濃度と温度領域で公開されている代表的なステンレス鋼であるSUS304の耐食データである。このデータからは、薄い青の領域で腐食速度は0.03mm/Y以下でSUS304は耐食性を示し採用可能と推定される。しかし、同図に示した点線のラインは、SUS304が硝酸環境で長期使用した際の腐食実績を基にした限界(概念的)を示している。この点線の右側では腐食のよる損傷が発生じていた。この実績は、公表されている耐食領域(図1の薄い青)より、狭い範囲でしかSUS304 は使用できないことを示している。

図1 硝酸環境でのSUS304の腐食データ1)
(数字は腐食速度で、単位はmm/Y。点線は実機での概念的な耐食限界線)
この差は、試験と実機使用の時間の差である。硝酸環境でのステンレス鋼は、粒界腐食を生ずるため、短期の試験では軽度に粒界腐食が生ずるのみであるが、実機で長期使用すると粒界腐食が進展して、粒界脱落が生じるため腐食速度は短期試験結果より大きくなる。
同様の実験室試験結果のデータと実機実績の差がある例は、希硫酸環境でのステンレス鋼でも生じる場合がある。実験室では、大気と平衡で溶存酸素の共存する状態で腐食試験が行われる場合が多いが、化学装置では蒸留操作などを受け溶存酸素の共存しない環境となる場合が多い。希硫酸環境中でのステンレス鋼の腐食に溶存酸素は、不働態皮膜を安定化させ腐食抑制剤として働く。このため、溶存酸素のある試験データと、溶存酸素のない実機では差が生じ、実機の方が硫酸濃度や温度が同じでも、試験環境より腐食が加速される場合が多い。
このように公表されている腐食データを使用可否の判断に活用する場合は、そのデータを正しいと鵜呑みにしないで、試験条件(試験期間や溶存酸素の有無等の環境条件)を調べて実機と比較するとか、他の公表データとの整合性を比較するなどの検討が重要である。また、できれば想定環境での浸漬による腐食試験で検証することが有用である。
以上をまとめて図2に示すので、参考にされたい。
参考資料
1)MS-5, Materials selector for hazardous chemicals, Nitric acid, MTI(1982)

図2 公表データの落とし穴
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