
モノづくり大国としての地位を維持・強化するためには、生産性向上・品質改善・コスト低減を同時に達成し、さらにサステナビリティやサプライチェーンの強靭化にも取り組む必要があります。こうした複雑な課題に対して、全員参加型の生産保全手法「TPM(Total Productive Maintenance)」は長年にわたり有効なソリューションとして採用されてきました。近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)との融合により、TPMの成果が一段と飛躍しています。本稿では、日本プラントメンテナンス協会の約1,700社におよぶTPM優秀賞データや国内外の先進事例をもとに、DX時代のTPMの有効性と今後の展望を2回にわたって探ります。第1回では、日本製造業を取り巻く複合的な課題と、それらの課題解決にTPM活動がどのように貢献しているのかを、設備総合効率(OEE)等の指標よりひも解きます。
日本製造業を取り巻く複合的な課題
日本の製造業は、これまで培ってきた高い技術力と品質で世界をリードしてきましたが、近年、その競争力は国際的に見て相対的に低下傾向にあります。たとえば、IMD世界競争力ランキング*1の生産性部門では、2000年には第1位であったものが、2015年以降は17~19位で低迷を続けており、その深刻さを示しています(図表―1)。この生産性の国際比較における低迷は、単に順位の問題に留まらず、製造現場における非効率性、設備投資の遅れ、そしてデジタル技術を十分に活用しきれていない現状が背景にあると考えられます。

図表―1 日本の競争力
さらに、国内では少子高齢化の進展により、製造現場での人材不足が慢性化し、加えて熟練技能者の大量退職による「技能継承の難しさ」も深刻な課題です。長年OJT(On the Job Training)に頼ってきた技能伝承の仕組みは限界を迎えつつあり、若年層が製造業を選ぶインセンティブも低下しているため、いかに魅力ある職場環境を創出し、体系的な人材育成を行うかが問われています。
また、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」への対応の遅れも競争力低下の大きな要因です。多くの企業がDXの重要性を認識しながらも、PoC(概念実証)止まりで全社展開に至らないケースが多く、デジタル技術を活用できるDX人材の不足も深刻です。DXは単なるITツールの導入ではなく、ビジネスモデルや組織文化の変革を伴うものであり、その変革を推進する人材、そして変革を可能にする組織能力の育成が急務です。
グローバルな視点では、米中貿易摩擦、新型コロナウイルス感染症のパンデミック、ウクライナ紛争、半導体不足、ホルムズ海峡の通行問題など、地政学リスクや予期せぬ事態が多発し、原材料高騰と相まってサプライチェーンの不安定化が常態化しています。単一の調達先や生産拠点に依存することのリスクが顕在化し、サプライチェーン全体の「可視化」「多様化」「強靭化」が喫緊の課題となっています(図表―2)。

図表―2 製造業がこれからの3年を考える上で考慮すべき点*2
加えて、パリ協定やSDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた国際的な要請が高まり、カーボンニュートラル目標の実現が喫緊の課題となっています。製造業は、環境規制の強化、エネルギー効率の改善、再生可能エネルギーの導入、廃棄物削減など、サステナブル生産への転換を迫られており、これは単なるコスト増ではなく、新たな技術革新やビジネスチャンスへと繋がる可能性も秘めています。
これらの多岐にわたる複合的な課題に対し、TPMは、生産阻害の要因となる“ロス”(故障ロス、段取り・調整ロス、空転・チョコ停ロス、速度低下ロス、不良・手直しロス、工程内不良ロスなど)を徹底的に「見える化」し、その排除を目指す普遍的な改善手法です。
「8本柱」と呼ばれるアプローチ(自主保全、計画保全、品質保全、個別改善、教育訓練、管理・間接部門のTPM、安全・衛生・環境、新製品・新設備の早期立上げ)を通じて、設備から人、組織全体にわたる「人づくり」を伴った徹底的な改善活動を推進します(図表―3)。

図表―3 16大ロスとTPMの8本柱
さらに、近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)を組み込んだ「TPM DX」によって、これらの改善サイクルのスピードと精度が一段と高まり、より複雑な課題への対応が可能になっています(図表―4)。

図表―4 TPM DX
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