DX・デジタル

注目記事

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サステナブルなモノづくりのために No.105

2025.12.03

 この連載でも何回か紹介していると思うのだが、精密工学会ライフサイクルエンジニアリング専門委員会(絶賛、会員募集中です。専門委員会などといかめしい名称ですが、ただの勉強会です)で、先日、自動車リサイクル工場の見学に行った。見学自体は大変楽しい、興味深いものだったのだがそこで伺った話がなかなか憂鬱なものだった。 ご存知かと思うが、自動車リサイクル業界は、数あるリサイクル業の中でも最大のもので、廃車を引き取ってきて、解体して、破砕機(シュレッダー)にかけて、そこから、鉄、銅、アルミなど取り出してきてリサイクルし、残りはシュレッダーダストとして燃やすか、埋め立てる。というのが基本の流れで、国内リサイクルのメインの流れとなっている。 憂鬱な原因の第一は、商売のタネの廃車が減っていることである。まず、自動車販売台数が減っている。日本の人口減少は止まらないし、都会の若者は車を買わず、カーシェアリングがすっかり一般的になった。ここまでは皆さん想像がつくだろう。大きいのは、中古車の海外流出が止まらないことである(ただし、外国に規格がない軽自動車はほとんど輸出されないらしい)。 例えば、2019年度には、処理した廃車が約340万台、輸出が約100万台であったのが、2023年度には廃車が約270万台に減って、輸出が約160万台に増えている(https://www.jarc.or.jp/data/index/)。これは世界に名高い「高品質で長寿命な日本車(例えば、アフリカはランクルじゃないととか)」のお陰であって、日本型ものづくりの誇れるところであり、廃車に回すよりも使えるのなら中古車として再使用した方が資源面でもメリットがある。 国内での自動車の平均使用期間は13〜4年であって、諸外国に比べると大分短いし、日本人は丁寧に乗る、近年の円安で日本の中古車が割安になっている。という話はよく聞く話だが、決定的な役割を担っているがオークション業者である。解体業者が今までは逆有償で(つまり、カーオーナーからお金を貰って)引き取っていた廃車がオークションで売れてしまう、走らない車にも値がつくという状況だそうだ。 ここで大きいのは自動車リサイクル券の存在である。多くの人が意識していないが、自動車リサイクル法は前払い方式で、皆さん新車購入時にリサイクル料金(約10,000円)を先払いしており、リサイクル券が車検証と一緒に保管してあるはずである。廃車時には、この10,000円で、フロン、エアバッグ、シュレッダーダストの処理料金が賄われるのだが、中古車を輸出するときには、この10,000円が返還される。つまり、オークションを介して安い中古車を購入する輸出業者にしてみると、この10,000円は儲けとして確約されている訳である。この結果、オークション業者に対抗するためにお金を払って廃車を引き取らざるを得ず、解体業者にとってはコストアップになり、廃車も集まりにくくなる訳である。

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TPMとSCMの連携が生み出す「サステナブルサプライチェーン」#3

2025.11.26

グローバル企業では、最適なSCM(Supply Chain Management)の実現に、TPM(Total Productive Maintenance:全員参加の生産保全)を活用することが多くなっています。それは、設備ロスを愚直に追求するTPMが基盤強化の強い武器であるからです。本稿では、3回にわたってTPMとSCMの関連性と実際の成果事例を説明します。

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第153回「隣の青い芝 と 増える技術的手段」

2025.12.10

 ここ1ヶ月の間に、ふと「隣の芝が青かったので芝刈りを手伝いに行った」という迷言を口走りました。個人的に気に入ったので、今後の定番ネタにしようかと思っています。 私の特性として、技術・工作は好きな一方で、なにか面白い原案を思いつくことは苦手、という自己評価をしています。我が研究室は玉乗りロボットをはじめ、多彩なロボットメカトロ(ときにはメカニズムや計測処理手法)をつくっていますが、私がネタ元なものはあまりありません。玉乗りも、学生さんが「玉に載ってバランスをするロボットをつくりたい」と謎な希望をもったことが起点です。こうすれば実現できるという技術課題は解決しましたが、それでもなお、学生さんの思いつきがなければ、あれは(少なくともうちでは)誕生していません。例年の卒業研究のテーマも、基本的には学生さんの希望を聞いて、それをどう実現可能な技術にもちこむか、卒業研究としてふさわしい規模にするかという調整をしています。 それゆえ、私が「隣の芝が青く見える」程度はかなり強いのではないかと思います。自分がやっていることよりも、他の方がやっていること・やろうとしていることが面白そうに見え、「自分ならこう実現する」みたいな考えで盛り上がります。もちろん、あくまでその方のアイデアなので、普段は心の内でとめるのですが、すでに既発表のものであれば実際に試みることはあります(学生さんが既知のテーマを希望することも、新規性が無いなど言わずに、むしろ積極的にOKする場合がある)。ましてや、そこに協力要請があれば、面白がってほいほい手伝いにいきます。 普段持っている仕事に上乗せするので、いろいろと厳しくなるのですが、明確な利点もあります。まず第一には面白そうと思って取り組めることですが、「あれこれ考えて工夫する面白さが見える」ことが前提で、何もしなくても解決、あるいは、私でなくとも誰でも解決できそうなことではありません。技術系は工夫を考えることで引き出しが増え、その後のヒントの可能性も増えます。 第二に、しばしば「自分だと生じない課題」が出てくることです。様々な仕様的制約下で開発されている方にとっては日常茶飯事かもしれませんが、方針も含めて裁量の幅が広い自分の仕事の場合は、最初から実現性の高い方法の選択とそれを組み合わせる方針を選びます(たとえば加工法を意識した形状)。分野が異なるとそのような配慮抜きの要望がなされますが、この無茶に対して真剣に向き合うことは、自身の幅を拡げることに繋がります。

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第152回「切れたネット回線 と 緊急対応の方針」

2025.11.12

 みなさんは自分の専門的能力をフルに発揮している、限界まで力を使っていると感じるのはどんなシーンでしょうか。しばしば締め切り寸前にもそういう状況になりますが、私が明確に意識するのは、インフラ的に普段使っているものに技術的なトラブルが起きたときの緊急対処です。 さほど頻繁に起きることではありませんが、たとえば、サービスを提供してるサーバが壊れた、ソフトウエアをアップデートしたら何かが正しく動かなくなった、今必要な加工機に故障が起きた、などなど。普段起きない想定・想定外に例外的に起こるので、対処マニュアルがあるわけではなく、可能性は認識していても具体的に考えていたわけでもなく、あるいは当初は認識していても、安定して動いているうちにすっかりその危険性を忘れてしまうことも。 先日、我が家の光回線がダウンしました。昼間は職場で仕事できますが、週末には家で作業することも常態化しており影響が大きく、子供ら大好きYoutubeやら見逃し配信やらネットへの依存性が高いので、重大案件です。事前にネット不通の報は受けていたので、帰宅後すぐに機器類の再起動などの定番は試しましたが復旧せず、本格的な障害分析に移行しました。 定番の、あるいは可能性を想定して対応が予めマニュアル化されていたようなケースを除くと、障害対応の基本は問題の切り分け、どこが正常でどこが異常かの分析です。各機器のステータスLEDには違和感なく、ケーブルの交換などでも変化はありません。いわゆる「ネットが使えない」という場合に、DNS(~.com などの人が読めるアドレスをネットワーク上の数値のアドレスに変換する仕組み)の不具合の場合もあって、その設定変更なども試しましたが改善せず。家内部のネットには異常は見られず、外にだけつながりません。念のため、スマホの回線経由(テザリング)で大学に一度行き、大学側からの家のサーバへの接続を試みるもやはり不可。 回線はおおまかには、NTTによる光ファイバの物的接続および基本となる通信と、プロバイダ業者による情報の接続からなるので、これらを疑いました。こちら側では光ファイバの信号接続には問題ないという表示なので、電話局側を疑いましたが、工事故障の情報ページを見ても直接該当しそうなものはありません。ここまでで、プロバイダ内でなにか接続の認証などに不具合が起きて情報的につながらないのでは、と考えて、状況説明を添えて問い合わせを出しました。 NTTにはプロバイダを介さずにアクセスできる確認用サイトがあることを思い出して試したのですが、そもそもこれもつながりませんでした。そこには故障が疑われる箇所として、家側で光ファイバに接続する装置(ONU)が挙げられており、申し込めばすぐに交換品を送ります、という記述が。 結論はこの故障でした。一見すると光ファイバで回線がつながっている表示でしたが、装置内のどこかで通信が通らなかったようです。この装置は2005年製で、我が家に回線引いたときから20年間、東日本大震災の停電で数日止まった以外はほぼずっと動いていたことを考えると、よく頑張ったとも。全体的にケースは黄ばみ、発熱箇所はさらに色が変わっており随分前から気になっていましたが。 2日後に送られてきた機器と交換しようとしたらまた課題が。いまどきは壁にファイバの差込口があって、そこからファイバケーブルでつなぐ方式が一般らしいのですが、黎明期に設置したためか、壁から出ているケーブルの被覆を剥いた、それこそ髪の毛のようなファイバが機器内部で巻かれ、接続されていました。折れたらおしまいという緊張感とともに接続し直して無事に復活しました。 結果的には復旧まで2日かかったのですが、NTTへの申し込みまではノンストップ、とにかく復旧優先でした。問い合わせるにしても、一般には早く問い合わせるほど回答は早く得られるでしょうし、一方で「動きません」みたいな雑な報告では解決にもつながらないので、状況分析は必要です(が、それに対する回答が「ルータの電源を入れ直して下さい」でがっかりしたのは、また別の話)。

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#DX・デジタル #安全・衛生 #技術・技能 #法令・規制 #設備管理・保全

ドローンを活用したスマート保安への取り組みと課題

2025.08.01

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サステナブルなモノづくりのために No.101

2025.08.01

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エネルギー危機を乗り越える! 今すぐ始める省エネ対策

2025.08.01

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第148回「古いメカトリ?機の解析 と 正負の圧力」

2025.07.01

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サステナブルなモノづくりのために No.100

2025.07.01

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ものづくり屋視点による労働衛生の実践 No.3 安全衛生のリスクアセスメントを再考する その1:マネジメントのツールとしての位置付け

2025.06.16

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サステナブルなモノづくりのために No.99

2025.06.02

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第147回「コンピュータの乱数 と 乱数の再現性」

2025.06.01

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サステナブルなモノづくりのために No.98

2025.05.01

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第146回「シャッフルされた学生番号とハッシュ」

2025.05.01

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第145回「正十二面体づくりと工学に生きる心得」

2025.04.01 無料会員

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サステナブルなモノづくりのために No.97

2025.04.01 無料会員