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注目記事

ドローンを活用したスマート保安への取り組みと課題
2025.08.01
出光興産株式会社 生産技術センターシステム 高度化技術室 松尾 耕三

サステナブルなモノづくりのために No.102
2025.09.01
今、この連載でも何回か書いたCIRP (国際生産工学アカデミー)の年次総会のために、スウェーデンのストックホルムに来ている(最近、こういう旅行記のような内容の薄いエッセイは余り書いてないかも)。とはいえ、来ているのは、ストックホルム市街から電車で20分ほど離れたシスタという、つくばのようなところで、エリクソンの本社はあるのだが、他は何もない。会議の会場とホテルが幾つかあって、レストランはホテルについているものぐらいしかないぐらい、何もない。幾つかのイベントがストックホルム市街で行われるのでその時はそっちに行くのだが、市街は街が綺麗で、趣があり、ずっと良い。 CIRP総会は生産工学の分野では権威ある学会として知られているのだが、今回は生成AI絡みのプレゼンばかりで辟易した。ライフサイクル工学、生産システム、設計関係の講演を中心に聴くのだが、生産システム関係は特に多かった。特に、スマートマニュファクチャリングという文脈で、人とロボットの協調がそもそも流行っている。この手の研究は、ロボットを使って、分かりやすい、見た目が格好良いデモが作れるので、とっつきやすい。筆者の研究室のテーマのように、何が問題か、何を解こうとしているのか、卒論を書いた後にやっと分かるのとは大違いである。 特にそういった人・ロボット協調システムで、人が生成AIと会話することによって、ロボットを指示通りに動かせるとか、人がジェスチャーで指示するとか、人がものを指さしながら名前を言ってあげると理解するとか、人のやったことを理解して真似て、ノウハウが獲得できるとか、組み立て作業を監視していてエラーが起きそうになったら教えてくれるとか、生成AIを噛ますと人とロボットが上手に協調できたり、生成AIを使うと、ノウハウが獲得できてコイルを巻くのが上手くなったり、脳波を使って脳から直接指示を送ったり、と様々なことが試されていて、それがいちいち論文になっていた。 むしろデモの魅力を競うデモ合戦になっていて、かなり制限された状況で上手く行くデモが作られているだけで実環境で動かなそうとか、そもそもそのタスクを人とロボットが協調してやることに意味あるの?とか、いろいろと突っ込みを入れたくなる、イラっとする学会であった。

第149回「マッサージロボ と 重さによる力の出力」
2025.08.01
最近、SNSにマッサージロボットのサービスを受けたという米国の方の話が流れてきました。写真を見ると、ベッド的なものに、手先に押すための部品が付いたような6軸くらいの腕ロボットが左右に2本立ち、おそらくベッドの下にレールがあって、腕の台座が前後(人の上下)に動くように見えます。受ける人は寝転んで、ロボットで上などから押す、という動作が想定されます。それを見た私は「恐ろしい領域に到達したか」と反応し、それが軽くバズりました。 反応の様子からは「ロボットにされることが怖い」と解釈されたようなのですが、私の解釈はロボットによる対人サービスとして難易度が高くて怖い、手を出したくないと思うようなものなのに、それが米国で一般向けのサービスになったらしいということへの驚きでした。 しばらく前から介護支援ロボットやパワーアシストスーツの話題があり、近年は協業ロボットというジャンルがありますが、従来からの生産設備の様々なロボット、メカトロとは、ある点で大きく異なります。生産現場のロボメカ類は「人間と隔離する」ことで、対人の安全性を確保する手段があり、柵、箱、扉、センサ類による人間接近警報、などなどが使われています。少なくとも「扉を開けたら緊急停止」なら動作部に人間が巻き込まれる事故は防げ、装置の設計としては装置そのものだけについて事故無く動くことに専念できます(勝手に手を伸ばしてくる人間がいると想定すると、かなり面倒な不確定要素)。 ところが、対人の「力を出す」サービスでは、人に接したところで動作しなければならず、発想が大きく異なります。しかも、力が不足しても役に立たないため、相応の力、たとえば人間が出せる力やそれを越えるような力を出させるわけです。その制御にもしもがあった場合には、関連する人間にダメージを与えかねません。それゆえ、高度な安全性が、広範囲なシナリオでの想定で求められます。マッサージは「痛気持ちいい」という言葉もあるとおり、痛いと感じるような力も期待されるとともに、一歩間違えば怪我させかねないというすれすれのところゆえの難しさがあります。 マッサージをするには、位置の制御と力の制御のハイブリッドが必要といえます。たとえば、身体の表面のどの辺りを押すか、というポイントは(何らかの計測や情報に基づいて決定できたとして)精度を伴う位置決めが必要になります。一方で、押すときは押す力の加減が必要です。もし相手が固いものであれば、手先位置が接触する少し手前だと力は掛からず、逆に接触位置から押し込み過ぎた位置の場合はメカ的制御的剛性に応じた力が作用します。相手が筋肉のように柔らかければ、それも含めて大きな力は出にくくなりますが、骨に近いところでは大きな力が生じます。また、メカや制御の剛性を全体的に下げると動作の誤差や振動の問題が生じます。そのため、位置制御だけで力出力は難しく、押す方向は力制御、それ以外は位置制御(方向を定める動作含む)という組み合わせの制御が必要となります。

第150回「オルガン講義 と 固有振動数」
2025.09.01
初夏から夏にかけて、大学はオープンキャンパスシーズンです。一般受験はしばらく先の話ですが、学校推薦型や総合選抜(AOという呼び方も)などはこれから出願時期を迎え、高校内の選抜や、大学側の選考が一部始まります。それゆえ、それらを検討する高校3年生、受験生さんたちは、最終的な進路目標を決断するための情報収集、あるいは、自分の志望動機を再確認するためなどで来場します。7月末には1、2年生の率が高まりますが、1年後2年後を見据えての参加とともに、キャリア教育の一環として1、2校のオープンキャンパス見学を夏休みの宿題としている高校もあるようです。 私はロボット分野ということもあって、このような場面ではしばしば模擬講義を担当します。毎回2回ずつ、「ロボットをつくる」というタイトルで話していたのですが、今回、ちょっとした出来心で、1回は従来通り、1回は「オルガンを知る」という全く別ネタでやることにしました。 少し前の回もオルガン(パイプオルガンのこと)の話を書いていたように、とあるきっかけからオルガンに関わる機会が増え、機械的な動作原理は、鍵盤からパイプまで基本的なところは把握しました。 とはいえ、これから機械の学科のお客さんを集めようというイベントで、これをやることには覚悟が要ります。え? なんでオルガン? という当然な反応を塗り替えて、関心を持って頂かなければなりません(いまご覧の読者の皆さんも、え? とお思いかもしれません)。今回、申し込み時点ではタイトルが出ておらず、来場時に配られた資料で気づくか、学科の部屋まで来て気づくか。実際、講義を始めた当初は微妙なリアクションを感じていたのですが、途中以降では皆さん熱心に聞いて下さっていたので、ほっとしました。 オルガンは発音する部分はパイプで、1本のパイプが1音色1音です。たとえば、管楽器の多くは操作で、弦楽器の多くは弦を押さえることで音の高さが変わります。一方、ピアノや木琴鉄琴は固有の音の高さのものを多数並べています。オルガンは後者の形式ですが、さらに1台で数種~2、30種の音色を持つ楽器で、多いとパイプ本数は数千になります。そのため、楽器としての特徴には、いかに音色をつくるかというパイプの工夫と、いかにそのパイプ群を演奏台の、主に一人の演奏者の操作で発音させるかという機械的工夫があり、モノや原理としてはかなり機械工学、さらにはメカトロです。 ということで、ちょっと意外性を狙って、機械の学科の模擬講義としてオルガンを投入してみた、という次第です。
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サステナブルなモノづくりのために No.100
2025.07.01

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サステナブルなモノづくりのために No.99
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第147回「コンピュータの乱数 と 乱数の再現性」
2025.06.01

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2025.05.01