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【第1回】潤滑技術からみたメンテナンス

2026.07.08

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香川大学 名誉教授
若林 利明

 1957年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。工学博士。1986年より日本石油株式会社中央技術研究所で潤滑油の研究開発に従事。1989年から2年間、英国ケンブリッジ大学へ留学。1997年に香川大学へ移り、工学部(2018年に創造工学部へ改組)で2022年まで、機械加工のトライボロジー、トライボシステムと潤滑剤の環境対応、メンテナンス・トライボロジーなどの研究テーマに取り組む。2018、2019年度日本トライボロジー学会会長。現在はENEOS株式会社の技術コンサルタントも務める。 

 この連載のタイトルにある「トライボロジー」、もしかすると、耳慣れない言葉かもしれない。
 1966年、適切な潤滑が国の経済的損失の大幅な削減につながるという英国教育科学省の調査結果にもとづき、潤滑技術の重要性を産業界へ提唱しようと、「摩擦」を意味するギリシャ語の“tribos“に「学問」を表す“-ology”を組み合わせて生まれた造語、それが“Tribology”である。潤滑に関わる学術分野としては、もともと“Friction Science(摩擦科学)”や“Lubrication Engineering(潤滑工学)”があるにはあったが、それを啓蒙するにあたり、旗印となる新しい言葉が必要だったというわけである。


*ギリシャ語のtribosの標記


 では、これを和訳するとどうなるか。当然、語源からは「摩擦学」になってしまい、まったく新鮮味を感じない。ならばそのままカタカナでよいのではないか、といった次第である。改めて「トライボロジー」とは何かを確認すると、それは「互いにこすれあう面と面との間に生ずる摩擦、摩耗、潤滑などの現象を取り扱う工学の一分野」のことであり、動くところのある機械の円滑な運転に不可欠な科学技術と言えよう。
 本題に戻って、この連載では、トライボロジーが貢献する実用化技術のあれこれを、筆者の知見、経験にもとづいて紹介したいと思う。その第1回は「潤滑技術からみたメンテナンス」で、潤滑剤の選定にはじまり、給油・給脂法、潤滑油の劣化診断および油中コンタミナントコントロールといった潤滑管理、油中摩耗粉分析等による機械の状態監視など、潤滑技術はメンテナンス活動において中核的な役割を演じている。そうした中から、いくつかの事例を取り上げる。

機械状態監視診断技術者の資格認証

 近年、あらゆる産業にグローバル化の波が押し寄せており、国際的な水準に照らした品質確保が求められている。これを担保するためには、そこに関わる技術者が要求される水準の能力をもつことが大切であり、機械設備のメンテナンスにおいても、この業務に携わる技術者を適正に評価しようとISO18436が制定された。これは機械の状態監視に関わる診断技術者の国際標準による資格認証であり、我が国では日本機械学会が、ISO18436に準拠した機械状態監視資格認証事業として実施している1、 2)
 その一つ、ISO18436-4は、潤滑技術に依拠する形で「トライボロジーによる機械状態監視技術者」を規定しており、日本機械学会では、これを日本トライボロジー学会の協力も得る形で事業に取り組んでいる。
 ISO18436-4には、カテゴリⅠ、カテゴリⅡ、カテゴリⅢの3つのレベルがあり、それぞれが初歩的実務経験者、経験を積んだ中堅技術者、指導的立場にふさわしい専門性をもつ熟練者を対象としている。各カテゴリの認証者数は、2025年度までの実績で、1325名、287名、そして14名に上る。

図1 カテゴリⅠテキストの表紙

 図1は、この認証カテゴリⅠで使用されるテキストで、カテゴリⅢまでの全テキストが刊行されている。これらのテキストは、現場で有用なトライボロジーのノウハウを満載すべく、メンテナンス・ストラテジー(保全戦略)に始まり、トライボロジーの基礎、潤滑管理に関わる各種の基本的事項、油中コンタミナントの計測と管理、オイルサンプリング、潤滑剤の健全性監視、摩耗粉分析と状態監視といったメンテナンス活動の中枢をなす潤滑技術に立脚した手法に関する知識、さらには潤滑管理プログラムの開発と管理という高度な方法論まで、ふんだんな事例とともに盛りだくさんの内容で構成されている。
 しかもテキストが、初歩的実務経験者、中堅技術者、熟練者それぞれを対象とするカテゴリⅠからⅢに分かれている点は、トライボロジーに対する習熟度に応じてテキストを選択できることにつながり、読者にとって大きなメリットと思われる。もちろん、テキストの活用ばかりでなく、機械状態監視資格認証制度にも関心をもっていただき、多くの方が資格を取得されるよう期待したい。

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