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老朽制御基板の復元修理による故障ゼロ実現(2025年度TPM論文賞プロダクション部門第2席受賞)

2026.08.18

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執筆者
ヤマハ発動機株式会社
プラントエンジニアリング部 主務
西村 史明

論文要旨
 当社では、導入から30年以上経過した生産設備が増え、徐々に保全の難易度が上がっている。大半のメーカーのサポートは20年前後で終了となり、その後、保守部品の入手が困難となる。そのため、古い設備が故障した場合、長期間の生産停止に繋がることが多く、工場操業における大きなリスクとなっている。
 この課題に対し、本稿では導入から20年が経過し電装品の使用限界を迎えたLP鋳造機89台について、交換部品(電子基板)を調達できない状況の下、基板構造を解析し劣化部品を特定することで“修理を手の内化”した事例を紹介する。
 本技術によりLP鋳造機89台(国内21台、海外68台)の基板起因故障ゼロを実現するとともに設備入替サイクルを20年から40年に延命し、1台当たり800万円、トータル7.2億円の投資低減を実現した。またこの技術はLP鋳造機以外へも適用が可能であり、将来グローバルで1000台超、投資80億円相当の削減ポテンシャルを見込んでいる。

はじめに

 当社では導入から30年以上経過した生産設備が増え、徐々に保全の難易度が上がっている。大半のメーカーのサポートは20年前後で終了となり、その後、保守部品の入手が困難となる。そのため、古い設備が故障した場合、長期間の生産停止に繋がることが多く、工場操業における大きなリスクとなっている。
 この課題に対し、本稿では導入から25年が経過し電装品のメーカーサポート期間終了を迎えたLP鋳造機89台について、交換部品(電子基板)を調達できない状況の下、基板構造を解析し、劣化部品を特定することで“修理を手の内化”した事例を紹介する。

保全部門の紹介

 保全部門は鋳造、加工、塗装、溶接から組立工程にいたる約7000台の生産設備に対し設備の維持管理を行っている。保全活動は大別すると、故障を未然に防ぐ“予防保全活動”と起きた後に修理する“事後保全活動”であり、“故障させない”“すぐ直す”を目標に掲げ活動に取り組んでいる。
 優先して取り組むべきことは“故障させない”であり、故障する前に前兆を掴み計画的に修理し、突発的な故障で生産を止めないことが重要である。この“故障させない”の実現に向けて、保全部門では日ごろから予防保全技術の開発に取り組んでいる。成功事例はパッケージ化された後、ヤマハグループ全体へ横展開され会社全体の突発故障低減に貢献している。

課題

3.1 鋳造職場の故障分析
 鋳造職場の過去の設備故障データを分析した結果、LP鋳造機の故障は全体の60%以上を占めている。3大故障部位は“加圧部”“機械故障”“保持炉”である(図表-1)。ワースト1は全体の40%を占める“加圧部”であり、その中でもっとも多い故障が“温度条件制御装置”であった。ここに着目し対策を進めた。

図表-1 ロス(設備故障停止(LP鋳造機部位別))発生状況(2018年)

3.2 温度条件制御装置の故障課題
 “加圧部”故障の半数以上を占める“温度条件制御装置”は、LP鋳造機の品質に大きな影響を与える制御機構である(図表-2)。

図表-2 LP鋳造機 構造略図

 この装置の保全上の課題は、下記2点である。

① 当職場ではプリント基板の修理技術を所持していない。
② プリント基板に実装されている素子は生産中止で入手できず、代替素子を探す必要がある。

 現状、制御基板の予備品は数点ほど確保しているものの、尽きた時点で修理が不可能となる。また製造から25年が経過し、いつ壊れてもおかしくない状況にも関わらず、予備品不足により故障前に交換する予防保全を取れないため、故障した後に修理を行う事後保全を強いられていた。基板交換修理は交換作業と調整・確認作業により約24時間を要すため、必然的にその期間は生産が止まることになり操業上のリスクとなっていた。これは国内外グループのLP鋳造機89台(図表-3)において共通の課題であった。

図表-3 LP鋳造機グローバル配置

修理手の内化 改善STEPサマリー

 手の内化の実現に向けて、活動は以下のSTEPで行うこととした。
・STEP1:【制御メカニズムの理解】
・STEP2:【故障部位の特定】
・STEP3:【復元方法の設定】
・STEP4:【内製修理の実現】
・STEP5:【検証手段の確立】
 次より各STEPの詳細について記述する。

修理手の内化

5.1 STEP1【制御メカニズムの理解】
 故障部位を特定し復元方法を設定するために、まずは“温度条件装置”の制御メカニズムを理解することからはじめた。
 LP鋳造機は金型に高温で溶融した液体状のアルミを低圧で供給している特徴がある(図表-4)。これはLP鋳造機内の保持炉に供給されたアルミの液面を“温度条件制御装置”から指令を受けた“加圧制御装置”が空気を供給することで、アルミの押し出し速度と時間を管理して高温のアルミを金型に供給することで製品を成型している。したがって“温度条件制御装置”はLP鋳造機の品質管理上、極めて重要な部位である。

図表-4 アルミ供給制御イメージ

5.2 STEP2【故障部位の特定】
 次に“温度条件制御装置”の故障部位を特定することとした。
 まずは故障のメカニズム解析を行うため“温度条件制御装置”を分解し、その回路解析に加え類似装置との比較検証を実施した。さらに基板に実装される素子の交換を1つひとつ行い、その都度変化を検証することで本装置の故障発生要因を特定することに成功した。
 故障発生要因は、以下3点である。

① IC6点の劣化
② コンデンサ(22点※補足参照)やフォトカプラ(8点)など有寿命素子の熱劣化
③ 基板汚れによるレアショート

※上記②の補足:有寿命素子における検証時に設けた判定基準の事例を以下に記す(図表-5)例:コンデンサ”の劣化判定基準(対象:電解/タンタルコンデンサ:28点)
・静電容量(μF):定格値比増減率±20%以内
・ESR(mΩ):ESR値(抵抗成分)+100未満
(自己発熱によりコンデンサの動作を阻害し損失増える)

 上記現象が複合的に発生することで、通信系異常が引き起こされていることを究明した。

図表-5 素子診断判定基準と結果事例

5.3 STEP3【復元方法の設定】
 復元においては、各素子を更新するだけではなく、MTBF延長のためいくつかの改善を取り入れた。

復元方法
①電解コンデンサを高寿命タイプに変更
②タンタルコンデンサを高寿命タイプに変更
③フォトカプラを高寿命タイプに変更
④ICを更新
⑤基板全体の再ハンダ及び、洗浄、コーティングを実施
⑥使用環境の改善(基板汚れの防止)

上記①、②の補足:高寿命コンデンサの選定事例
・耐熱性(105℃以上)
・長寿命(5000H以上)

5.4 STEP4【内製化の実現】
 次に本作業の自職場内製化を目指した。作業に必要な機材を揃え、作業環境を整備し、交換手順を標準書にまとめた。そして職場員に教育・訓練を行い、作業品質、作業工数の均一化を図った。今後のグループ会社への展開を想定し、これらを教育ツールとしてパッケージ化した。

5.5 STEP5【検証手段の確立】
 ここからは“温度条件制御装置”復元後の検証方法について記述する。故障個所の特定と復元方法の確立を行ってきたが、復元後の基板が正常に機能するかを検証する必要性があった。実機検証(LP鋳造機)も検討したが、アルミを溶融した高温の液体を取り扱うため誤動作による湯漏れ事故等のリスクがあり、別の検証手段を検討することとした。
 まず復元した“温度条件制御装置”の良否判定の基準となる項目の設定について検討した。はじめに“温度条件制御装置”の仕様書に記載されている内容が要求品質条件であるという仮説を立て、24の検査項目を設定した(図表-6)。

図表-6 オフライン検証項目リスト

 次にこの検査項目にのっとり、オフラインでの仮想状態で実機投入時と同等の検証を実現するため、テスト機を製作した。このテスト機を用いて“温度条件制御装置”の復元後に金型温度と溶融したアルミの供給圧力を疑似的にテストすることで、本機投入前の“温度条件制御装置”の動作を保証することとした(図表-7)。これにより復元後の動作保証の精度向上とともに、実機投入時の安全性も確保することが可能となった。

図表-7 オフライン検証手順(判定シート項目 NO19-24 抜粋)

成果

 上記の通り、制御基板の復元技術を確立し、国内のLP鋳造機の全台(21台)に展開した。これにより2018年にワースト1だった“温度条件制御装置”の故障時間は2023年に“0分”を実現し、突発故障による生産計画の遅れや、挽回生産の発生はなくなった(図表-8)。
 またこの技術は海外グループ会社(68台)への横展開を開始している。本技術により、LP鋳造機89台(国内21台、海外68台)の基板起因故障ゼロを実現するとともに、設備入替サイクルを20年から40年に延命し、1台当たり800万円(電装一式交換コスト)、トータルで7.2億円の投資低減を実現する見込みである。
 さらに本技術は、LP鋳造機以外へも適用が可能で、古いマシニング、旋盤、研磨機へ適用するとグローバルでは1000台超、投資80億円もの削減ポテンシャルを有している。

図表-8 成果:ロス(故障停止時間)18年⇒23年

結び

 本技術により、老朽した制御基板の復元が可能となった。事後保全から予防保全への転換を実現し、基板に起因する故障の未然防止、すなわち基板故障ゼロを実現できた。
 一方、今回は制御基板に関する老朽対策を実現したに過ぎない。今後も進む設備の老朽化に対し、基板以外の部品についても同様の予備品切れが発生し、事後保全対応、そして故障による長時間停止を余儀なくされている。この課題に対処するため、引き続き保全技術を高め、解決していくことが部の重要ミッションである。古い設備であっても“故障させない”、“すぐ直す”により、工場の操業を止めない保全を実現すべく、保全力を強化し、当社生産基盤の強化に繋げていく。

《活動協力者》
ヤマハ発動機株式会社 プラントエンジニアリング部 アルミG 鋳造保全 外山 勉
ヤマハ発動機株式会社 プラントエンジニアリング部 アルミG 鋳造保全 鶴橋 一人

TPM賞とは

 TPMによって成果をあげている国内外の事業場や、設備管理技術の発展に寄与する優秀な論文・商品、個人の貢献等を審査・表彰する制度です。TPM賞には、5つの賞があります。

本記事では、設備管理技術に関するシステムの研究あるいは改善実績等の論文で、独創性、効果、汎用性に優れているものを表彰するTPM優秀論文賞を受賞された論文を紹介しています。

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