樹脂部品用ナット圧入機におけるサイクルタイム低減と消耗品寿命向上方法の検討(2024年度TPM論文賞プロダクション部門第2席受賞)

2025.07.01

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執筆者
ヤマハ発動機株式会社
生産本部製造技術統括部 PF車体技術部新機種グループ
阿部 正和

論文要旨
 当社では、主に船外機に使用される外装骨格部品について、射出成形により熱可塑性樹脂で製作している。外装骨格部品では、他部品との締結に際して外装骨格部品に埋め込まれた真鍮製のナットを使用している。真鍮製ナットは自動機に搭載された誘導加熱装置により加熱され、熱可塑樹脂製の外装骨格部品に圧入されるが、消耗品の交換頻度や生産性に課題があった。加えて、圧入工程で使用する自動機は、サイクルタイムが射出成形工程より長く、射出成形工程と圧入工程を同期生産するにあたり射出成形工程のサイクルタイムを圧入工程のサイクルタイムに合わせて伸ばす必要があり、製品サイクルタイム短縮の阻害要因になっていた。
 本稿では、新規に誘導加熱装置搭載の自動機を導入するにあたり、交換頻度の高い消耗品として、圧入時にナットを把持する板バネ状の部品と誘導加熱用のコイルに着目した。これら2つの消耗品について、有限要素法解析結果に基づいた形状変更や冷却方法の変更を行い、消耗品寿命の向上を実現した。
 また、生産性及び品質向上を阻害する因子を調査し、新設機の設計にフィードバックすることで、サイクルタイムの短縮及び工程能力の向上を実現したので併せて報告する。

緒言

 当社では、主に船外機に使用される外装骨格部品について、射出成形により熱可塑性樹脂で製作している。外装骨格部品では、他部品との組付け時に、水との衝撃による外力や船外機自体の振動に起因する応力に耐えうる必要があり、当社では真鍮製のナットを外装骨格部品に埋め込んで締結構造に供している。
 熱可塑性樹脂製品に金属部品を埋め込む方法は、射出成形に用いる金型に埋め込む金属部品を固定したのち金型を締め、溶融した熱可塑性樹脂を射出する型内インサート成形法と、射出成形で作製した製品を成形機から取り出した後に、金属部品を埋め込むアウトサート法の2つに大別される。後者は部品の埋め込み方により、超音波圧入法と誘導加熱圧入法の更に2つに大別される。Fig.1は、それぞれの方法における工程の模式図と、QCD観点でのメリット、デメリットを示したものである。当社では、船外機用樹脂部品の製造工程において、金型内に金属部品を固定する作業時間の削減を目的にアウトサート法を用いており、その中でも超音波圧入時の騒音を避けるべく、誘導加熱圧入法を採用しており、誘導加熱装置を自動機に搭載して運用している。
 誘導加熱圧入法をはじめとするアウトサート法では、圧入工程と射出成形工程とを工程分割できる。当社では、圧入工程実施時に次ショットを射出成形工程で作製することで、サイクルタイムを低減し、生産の効率化を図っている。したがって、生産性低下を防ぐには、射出成形工程のロスを刈り取ったうえで、圧入工程のサイクルタイムを射出成形工程のそれより小さくし、圧入工程が射出成形工程に追従できるような工程設計が必要になる。しかしながら、既存機の圧入サイクルタイムは成形工程のそれより長く、圧入工程がネック工程であった。加えて、誘導加熱に使用される銅製のコイル(以下、「コイル」と表記)や被圧入対象の真鍮部品把持に使用しているチタン合金製の板バネ状部品(以下、「先端チップ」と表記)をはじめとする消耗品の寿命が最大で2か月ほどと短いうえに、寿命のばらつきも大きいことからチョコ停や故障の主要原因になっていた。
 本稿では、新規で誘導加熱装置搭載の自動機を導入するにあたり、定常作業、非定常作業の双方における生産性向上方法について報告する。既存機について要素作業分析を実施し、ネック工程の削減が可能な仕様を折り込むことで、サイクルタイムの低減に成功した。停止ロス削減の観点から、交換頻度の高い消耗品としてコイルと先端チップに着目した。コイルについて、消耗の要因を高温条件下における酸化銅(Ⅱ)の生成であると判断し、冷却方式を変更することで、高温条件下での酸化速度を低減させ、コイルの交換頻度低減に成功した。先端チップについて、有限要素法解析により、ナット把持を想定した強制変位付与時に曲げ応力が低下する形状を調査し、新設機に使用される先端チップの設計にフィードバックした。これらにより、消耗品寿命向上に成功し、設備の安定稼働に寄与しただけでなく、圧入作業の再現性向上による圧入品質の向上もみられた。
 また、生産性及び品質向上を阻害する因子を調査し、新設機の設計にフィードバックすることで、サイクルタイムの短縮及び工程能力の向上を実現したので併せて報告する。

Fig.1 樹脂部品に金属部品を埋め込む各工法におけるメリットとデメリット

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