Absolute Sustainability

今年の3月は、2つ主催する国際会議があって大変バタバタした。1つは、鎌倉プリンスホテルで開催したCIRP (国際生産工学アカデミー) Life Cycle Engineering (LCE) 2026国際会議。これは300人以上の参加者を集めて大変盛況であった。もう一つは、同じくCIRPのDesign 2026国際会議。こちらは、東京臨海副都心の日本科学未来館で約200人を集め、こちらも盛況であった。
これらの会議の開催報告は別の機会に譲るとして、今回話したいことは、これらの会議に併設して企画した「Absolute Sustainability評価法」に関するワークショップについてである。メインのCIRP LCE 2026、CIRP Design 2026の国際会議の方はしっかりした実行委員会があって、筆者は不本意ながら年長者の部類なのでさほど負担がないのだが、このワークショップは外人の主催者に頼まれて、というか、主催者がやっているプロジェクトに巻き込まれて、筆者が独力に近い形で開催したので、思った以上に大変だった。というか、筆者の秘書さんに大変忙しい思いをさせてしまった。
Absolute Sustainabilityというのは、この連載でも紹介したような気がするが、CIRP関係では一般的な考え方である。できるだけリサイクルしましょうとか、頑張って省エネしましょうという漸進主義ではいつまで経っても持続可能な社会には到達しない。だったら、持続可能性を達成する絶対目標を決めて、そこからバックキャスティングで達成目標を決めてその目標を実現しましょうという考え方である。例えば、温暖化の目標で2050年に実質排出量をゼロにするというのはまさにAbsolute Sustainabilityの考え方になる。
今回のワークショップの主催者は、デンマーク工科大学のMichael Hauschild教授 (LCAの専門家で、このAbsolute Sustainabilityの権威)、Tim McAloone教授 (設計が専門で、製品サービスシステムの権威)の2人で、デンマーク工科大学に彼らを中心にAbsolute Sustainabilityセンターというのを設立している。筆者は2人と仲が良く、冒頭に書いた国際会議に来てやるから、日本企業と繋ぐようなワークショップをオーガナイズしろという甘言に乗って、企画する羽目に陥った。内容的にはCIRP LCE 2026と深く関係するので、3月13日に会場の鎌倉プリンスホテルで1回目を企画したのだが、このワークショップのために鎌倉くんだりまで来る人は多くないだろうから、3月17日にCIRP Design 2026の併設ワークショップとして臨海副都心で同内容の2回目のワークショップを企画した。蓋を開けてみると、参加者数は1回目40名、2回目26名で1回目の方が多く、企業の方でもわざわざ鎌倉まで来て下さる人が数多くいた。鎌倉プリンスホテルは良いところですからね。
さて、ワークショップの内容は、Absolute Sustainabilityの考え方の紹介と、その評価法(AESA / Absolute Environmental Sustainability Assessment)の解説と演習がメインであった。一般のライフサイクル・アセスメント(LCA)が、例えば、日本で使う場合、電気自動車とハイブリッド車のどちらが環境負荷が小さいか、といった相対比較を行うのに対して、AESAは、このハイブリッド車を使うことが持続可能かどうか、つまり、Absolute Sustainabilityを評価する手法である、というのが彼らの主張である。Joint Research Centreという欧州委員会のシンクタンクからは、このAESAのガイドが出版されている。
AESAの実施手順は1)環境負荷の推計、2)環境容量の配分、3)結果の解釈の3段階からなる。各段階の概要をワークショップの中での演習の課題であった「デンマークで電動自転車で1人キロ移動する」という機能単位を例に紹介する。
1)はこの機能単位を実現するための環境負荷を普通のLCAで計算する。ここでは、例えば、指標としてCO2排出量を使って、0.0146kgCO2と計算する。
2)が難題で、この機能単位に許される環境負荷の許容量(Safe Operating Space, SOSと呼ばれる)を計算する。スタートはこの連載でも何度か出てきた「プラネタリー・バウンダリー」でこれを上記の機能単位に割り当てる。ただし、その方法はいろいろあって決定打がないというのが現状である。今回のワークショップの方法では、まずプラネタリー・バウンダリーの許容量を世界人口で割って、一人当たりの許容量を計算して、それを上記の機能単位に割り当てている。このときに、Grandfathering(GF)といって、今の環境負荷の割合で配分したり、最終消費支出割合といって、支出額の割合で配分したりする。例えば演習の例では、地球のCO2の許容量が 年間6.81×1012 kgCO2、世界人口が8.3×109人だとすると一人当たりのSOSが年間820kgCO2。GFで考えたとして、デンマーク市民の年間のCO2排出量、現状の上記機能単位の平均CO2排出量がそれぞれ11,312kgCO2、0.2315kgCO2だとして、820×0.2315/11312=0.017kgCO2となる。これが上記の機能単位のSOSということになる。
3)では、1)と2)を比較して、許容量の何倍かを計算する。1より小さければ許容範囲内なので持続可能、そうでなければ持続不可能なので許容範囲内まで下げる手段を考えなければいけない。上記の例では、0.0146/0.017=0.86ということで持続可能という答えになる。ところが配分方法に最終消費支出割合を使うと、デンマークのGDPが一人年間432,647DKK、デンマークの1人キロの移動に対するライフサイクルコストの平均が3.36DKKだとすると、2)の結果は、820×3.36/432647=0.0064kgCO2となって、3)の計算結果は0.0146/0.0064=2.3となって1を超えるので持続不可能という結果になってしまう。
このように、2)の配分によって結果が大きく変わってしまうし、例えばGFであれば環境負荷の高いものは将来にわたって相対的に環境負荷が高くてよいというロジックになってしまうので、それぞれの配分方法には倫理的な問題がある。
以前見た論文では、2)の方法として、一人当たりの許容量に直さず、いきなり世界のCO2排出量のうち、自動車が排出している割合を出して、さらに、世界の自動車生産台数に対するドイツの自動車生産台数の割合をかけて、ドイツの自動車産業のSOSを計算していた。これなんか、将来に渡って世界もドイツも産業構造が変わらないことを前提にしていてとても受け入れられないと感じた。
実は、いろいろなところでもてはやされているいわゆるScience Based Target (SBT)にも同じ問題がある。日本人はかなり結果を気にすると思うが、ヨーロッパ人は、ロジックが明確であれば、結果がどうであれ、方法論を受け入れて、その後良くして行くのだなぁと感じる。そういう意味では方法論について漸進主義なのだと思う。
まあ、手法としてはまだまだ未成熟なものであったが、ワークショップとしては和やかな雰囲気で、人数もちょうど良く、参加者に評判の良いものとなって、ホッと胸をなで下ろした。
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