

「98%硫酸環境で炭素鋼の使用、硫酸流速を上げるべからず」
常温の98%硫酸を取り扱うタンクや配管では、一般に炭素鋼が用いられる。これは高濃度硫酸環境では、炭素鋼表面に硫化物を含む腐食生成物の皮膜が形成され、耐食性を示すためである。
しかし、この腐食生成物皮膜は、硫酸の流速が高い場合に”はがれ易い”特徴がある。その皮膜のはがれた部分では、炭素鋼の皮膜に覆われない金属表面が露出し腐食が発生する。すなわち98%硫酸環境中で炭素鋼は、エロージョン・コロージョンを受けやすい特徴がある。
炭素鋼およびSUS304ステンレス鋼で、高濃度硫酸中での常温近傍での皮膜がはがれを防止するため、設計や運転で注意すべき制限流速が、表に示すように知られている。この表に示すように、炭素鋼だけでなくステンレス鋼にも制限流速があること、および炭素鋼は98%から硫酸濃度が低下すると制限流速も98%の場合より低下することに注意する必要がある。これは、硫酸濃度が98%より低下するほど、表面に生成する腐食生成物が不安定になるためである。
表 常温での高濃度硫酸中での各種材料の流速制限

【日本プラントメンテナンス協会編、「防錆・防食技術」、P.221(1992)より抜粋】
高濃度硫酸中での炭素鋼製タンクや配管のエロージョン・コロージョンを防止するためには、流速を表の制限流速より低く運転する必要がある。
しかし、制限流速以下に運転していても、ノズルやエルボ部などで流れの渦が発生する部分に限定してエロージョン・コロージョンが発生する場合がある。その場合は、その部分のみを炭素鋼からSUS304ステンレス鋼に変更する、もしくはステンレス鋼を当て板することが減肉発生の防止策となる。
なお、このように異種金属を環境中で接触して使用しても、高濃度硫酸環境で炭素鋼とステンレス鋼の腐食電位の差がほとんどなく、異種金属接触腐食の発生はないと考えられる。
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