
2025年度の連載「ものづくり屋視点による労働衛生の実践」では、主に有害物質に係る業務上疾病を防ぐ視点から解説したが、労働衛生の全体領域を語るならば、外せない分野を残してしまった。それが人間工学である。「安全衛生管理活動における人間工学の位置付けと課題」として、3回にわたり補足をしてきた本連載も、今回が最終回となる。
第1回:人間工学の2つの歴史的潮流(労働衛生管理活動の背景として)
第2回:労働と生産の必須要素である人間工学の課題と領域
第3回(今回):TPMの源流の1つとされる科学的管理法と労働衛生
人間工学は、労働者の安全や健康だけでなく、生産性や品質にも深く関わる領域である。しかし、その重要性に比べて十分に理解されているとは言い難い。そこで本連載では、人間工学の歴史・課題・領域について整理してきた。
第1回では、人間工学に流れ込む2つの歴史的潮流――労働衛生に結実する流れと、生産技術・IE(インダストリアル・エンジニアリング)につながる流れをたどった。第2回では、人間工学が対象とする領域と、「作業を人に適合させる」という視点から、現場への展開ツールまでを見てきた。
最終回となる第3回では、第1回で触れたテイラーに立ち返る。TPMの源流の1つとされる「科学的管理法」が、実は労働者の犠牲の上に効率を追求したものではなく、ドラッカーも高く評価する「人間尊重」を前提としていたことを確認する。長らく誤解とフォーディズムとの混同にさらされてきたテイラーの思想の復権を試みるとともに、それが労働衛生の目的――「作業を人に適合させ、人をその仕事に適合させる」と本質的に合致していることを示し、結びとしたい。
TPMが科学的管理法から受け継ぐもの(経験から科学へ)
TPMは、1971年に提唱されたものであるが、生産保全を起源に、初期段階では「全員参加で設備のライフサイクル全体を管理する」ところから始まり、今ではマネジメントの次元へと昇華していることに異論はないと思う。その提唱から進化の過程に至るまで大きな役割を担った中嶋は、ドラッカーを引用し、“TPMは「マネジメントの3つの役割」を果たす”と著している1)。これを図表―1に示す。TPMの成果実績は、まさにドラッカーのいう第1、第2、第3の役割に相当する。

図表―1 TPMはマネジメントの3つの役割を果たす1)
そのドラッカーは、「フレデリック・W・テイラーこそ、仕事が体系的な観察と研究に値するものとした最初の人だった。そして何よりも、20世紀において、先進国における一般人の生活をかつての富者よりも高い水準にまで引き上げることになった豊かさの増大は、このテイラーのサイエンティフィック・マネジメント(科学的管理法)のおかげだった。」2)と高く評価している3)。テイラーの著作「科学的管理法 マネジメントの原点」4)の中で、“マネジメントの目的”に言及がある。「マネジメントの目的は何より、雇用主に『限りない繁栄』をもたらし、併せて、働き手に『最大の豊かさ』を届けるべきだ。」とある。
テイラー(1856-1915)が活動した19世紀末から20世紀にかけての米国では、多くの工場で熟練労働者が内部請負人として部下の労働者を支配し、個人的な熟練をもって作業の段取りや1人当たりの生産量を決定していた。熟練工以外はまったくそれらを把握していない。まさに主観と経験に基づく「管理状態」であった。テイラーはこれを、多くの生産現場での体験や、現場作業での実験・テストによる研究に基づく科学的管理法としてまとめあげた。“経験から科学へ”である。これはインダストリアル・エンジニアリング(IE:徹底したムダの排除による効率化、生産性の驚異的な向上が大きな特徴)として1920年ごろに日本に導入されることになる。TPMはそのIEを主要な源流の1つとして、ムダをロスと呼び、人の動作ロスのみではなく、設備のロス、原材料・エネルギーのロスなど、あらゆるロスを徹底的に排除する活動として形成されてきた。
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