bool(true)

第9回 潤滑診断による状態監視

2025.12.03

icon X icon Line icon Facebook icon Printer
技術・技能一覧に戻る

RMFJ株式会社
久藤 樹

出光興産株式会社にて潤滑管理業務に従事後、現在はRMFジャパン株式会社テクニカルコンサルタントとしてセミナーやコンサルタントを実施している。

資格:技術士(総合技術監理部門、機械部門)
   機械状態監視技術者(振動カテゴリーⅢ・トライボロジーⅢ)
著書:「基礎から学ぶ潤滑管理」(潤滑通信社)
   「一から学ぶ工業潤滑剤」(日刊工業新聞社) 

【質問です】
 「ICP発光分光分析は、油に不溶のスラッジを直接イオン化するので、一度に多元素の分析が可能で、設備の摩耗部位、摩耗要素の同定ができます。」この文章は正しいですか?

設備診断と潤滑診断

(1)潤滑診断の目的:
①潤滑診断により、設備の異常の予兆を捉え、故障する前に適切な保全を実施することです。
②設備が故障する要因を監視・診断して、故障要因を事前に除去することです。

(2)人の健康と設備診断
 表1は、人の健康診断と設備診断を比較した表です。健康管理の第一歩は血液検査からであり、設備診断の第一歩は潤滑診断(潤滑油分析)からです。また、表2に、潤滑診断の内容を示します。潤滑診断は、おおまかに油の劣化診断と汚染度診断および摩耗粉診断、漏洩診断に分けられます。
 図1に、潤滑油の分析法を示します。性状分析は、潤滑油の酸化劣化と潤滑油の清浄度を分析します。摩耗粉・金属分等の分析では、機器の摩耗、損傷の有無およびその程度等の分析を行います。

表1 健康診断と設備診断

表2 潤滑診断の内容

図1 潤滑油分析法の分類

(3)潤滑油の管理基準
 油の油種別の性状分析による管理基準値を表3に示します。また、性状分析項目の意義を表4に示します。油は酸化すると色相が濃くなりますが、その度合いは使用される添加剤の種類や使用環境によって異なります。油の酸化劣化の進行度合いは、新油からの酸価値の変化度合いによって判断します。
 水分が0.05%以上混入すると油の外観が曇るので、外観を観察すれば水分の混入の有無は判断できます。水分が0.1%以上混入している場合は、クラクルテスト(ホットプレートに油を垂らす)を行なえば水分の混入は判断できます。水分が混入した油は、水分を除去するかもしくは更油します。

表3 潤滑油の種類別管理基準値

表4 潤滑油の分析項目の意義

(4)メンブレンフィルタの観察
 劣化が進行した使用油を、図2に示すように0.8μのメンブランフィルタでろ過すると、油に不溶の物質がフィルタ上に捕捉されます。メンブランフィルタに補足されるのは油の劣化生成物のスラッジと摩耗粉および塵埃等のコンタミナントです。

図2 ミリポア試験による汚染度の評価

①簡易的には、重量を測定しなくてもメンブレンフィルタ観察するだけでも評価できます。
②摩耗粉が多い場合は、メンブレンフィルタ外観は黒っぽくなります。
③スラッジ等の劣化生成物が多い場合は、黄褐色から茶褐色になります。
④メンブレンフィルタを観察することにより、汚染の原因が推定出来ます。
⑤メンブレンフィルタに補足された摩耗粉等の異物を拡大鏡で観察することで、機器の損傷を推測することも可能です。ミリポア試験では、数値だけでなくメンブレンフィルタの観察も大切です。外部の分析機関に分析を依頼する場合は、試験後のメンブランフィルタを返却してもらいます。

この記事は、会員専用記事です。

有料会員になると、会員限定の有料記事もお読みいただけます。

技術・技能一覧に戻る