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第7回 グリースの選定

2025.10.08

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RMFJ株式会社
久藤 樹

出光興産株式会社にて潤滑管理業務に従事後、現在はRMFジャパン株式会社テクニカルコンサルタントとしてセミナーやコンサルタントを実施している。

資格:技術士(総合技術監理部門、機械部門)
   機械状態監視技術者(振動カテゴリーⅢ・トライボロジーⅢ)
著書:「基礎から学ぶ潤滑管理」(潤滑通信社)
   「一から学ぶ工業潤滑剤」(日刊工業新聞社) 

【質問です】
 高速回転するころがり軸受に攪拌抵抗を少なくするため、軟らかいグリースを軸受空間容積の1/3程度充填して使用した。この判断は、正しいですか?

グリースとは

(1)グリースの組成
 グリースとは、図1に示すように基油(ベースオイル)に増ちょう剤を分散させて半固体状にしたものです。増ちょう剤は、液体であるベースオイルを半固体のゲル状にする為に配合します。増ちょう剤は、立体的な網目構造を形成します。この網目構造が、スポンジが水を保持するように液体の潤滑油を保持します。
 繊維(網目構造)の隙間に油分が毛細管力によって保持されます。「スポンジに水を含ませた状態」を考えると水が潤滑油でスポンジが増ちょう剤に当たります。性能を向上させるために潤滑油と同じように添加剤を添加します。

図1 グリ-スの組成と潤滑

(2)増ちょう剤の種類と特徴
 増ちょう剤は、グリースの耐熱性、機械的安定性、耐水性などの性能に影響する重要な成分です。表1に、増ちょう剤別のグリース特性比較を示します。増ちょう剤は一般的に石けん系と非石けん系に大別されます。石けん系は、単一石けんとコンプレックス石けんがあります。単一石けんは、脂肪酸や油脂を水酸化物等でケン化した金属石けんです。コンプレックス石けんは、単一石けんで使用されている高級脂肪酸と他の有機酸を組み合わせて複合石けんとしたものです。コンプレックス石けんグリースは耐熱性などの性能が向上します。
 カルシウム石けんグリースは、耐水性はありますが熱に弱いです。ナトリウム石けんグリースは、耐熱性は良好ですが、水に弱いという欠点があります。リチウム石けんグリースは、耐熱性と耐水性の両方に優れるため、万能グリースとして最も多く使用されています。
 非石けん系増ちょう剤は、有機系、無機系があります。有機系の代表的なものとしてウレア、ナトリウムテレフタレ-ト、PTFE等があります。ウレア系グリースは、耐熱性が高く酸化安定性に優れるなどの長所があります。ただし、ウレア系グリースは、熱や時間の経過とともに硬化するものがありますので注意が必要です。フッ素系増ちょう剤としては、PTFEがあり、PFPEを基油として組み合わせたフッ素グリースは、耐熱性と耐薬品性に優れいます。無機系の代表的なものとして、ベントナイトやシリカゲルグリースがあります。表1を参考に、使用目的にあった増ちょう剤を選定します。

表1 増ちょう剤別のグリース特性比較

(3)基油の種類と特徴
 表2に、代表的な基油の特性比較を示します。基油は、グリースの組成の70~95%を占めており、グリースの潤滑機構において重要な役割を果します。グリースの酸化劣化、蒸発損失、低温流動性および潤滑性は基油の影響が大きくなります。基油として用いられる潤滑油は、鉱油と合成油に大別できます。 市販グリースのほとんどは鉱油を使用しています。基油の粘度は、高温・低速・高荷重条件では高粘度基油を、低温・高速・低荷重条件では低粘度油を用います。特に小型電動機の軸受や低温トルクを必要とする潤滑部分、あるいは低温雰囲気での使用にあたっては粘度選定が重要になります。
 また、鉱油のタイプは、従来は増ちょう剤との親和性がよいナフテン系油が用いられていましたが、最近では潤滑油と同じように安定供給とコストの問題から、パラフィン系油を使用する傾向にあります。鉱油の使用温度範囲は-20℃~120℃程度であり、これを越える極低温や高温下で用いられるグリースの基油には合成油を用います。図2に、グリース基油の使用温度範囲を示します。
 合成油は、鉱油では得られない特性を補うために、使用します。現在ではPAO(ポリ-α-オレフィン)やエステル油、アルキルジフェニルエーテル油が主に使用されます。高温下において長寿命を必要とする装置に合成油が使用されます。

表2 代表的な基油の特性比較

図2 グリース基油の使用温度範囲

(4)グリースの添加剤の種類と特徴
 グリースの添加剤は、潤滑油に用いられているものとほぼ同じものが用いられます。グリース潤滑は、増ちょう剤に保持された油分が分離し、潤滑面で油膜を形成し、潤滑性を維持します。流体潤滑条件下では、基油のみの油膜で十分ですが、混合潤滑や境界潤滑条件で使用する場合は、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤及び固体潤滑剤を添加します。
 グリースは、潤滑油と異なり沈殿分離の問題が起こり難いことから、固体潤滑剤を添加することも可能です。高温・高荷重等の厳しい潤滑条件下の使用において、固体潤滑剤を用いることがあります。添加する代表的な固体潤滑剤としては、二流化モリブデン、グラファイト、PTFEなどがあります。

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