bool(true)

サステナブルなモノづくりのために No.109

2026.04.08

icon X icon Line icon Facebook icon Printer
DX・デジタル一覧に戻る

生成AIの得意不得意

 ChatGPTや画像を生成する生成AIの話題が相変わらずホットである。先日、コンサルの人と話しをしていたら、今や米国の超有名大学を卒業しても就職口がみつからない。AIの影響で人減らしが既に始まっているとうい話を聞いた。日本社会はもう少し人間に対して優しい社会だと思うが、本当にそういう時代が来たのか・・・。
 確かに、例文を作って貰ったり、翻訳したり、いろいろ大変便利ではある。我々の研究室でも生成AIを使った研究は多少はやっていて、そこで気付いたことを紹介してみる。細かいことを言うと、今回の主題はChatGPTに代表されるLLM(Large Language Model)で、それは生成AIの一種。他には画像生成AI、音声生成AIなどが生成AIに含まれるそうである。
 昨年度LLM関係で面白かったのは、リマニュファクチャリング(使用済み製品を新品同様の品質まで再生すること、略してリマン)設計ガイドラインをLLMを使って導出するという研究である。リマン設計はサーキュラー・エコノミー(CE)実現のために普及させなければいけない典型的なエコデザイン手法の1つである。しかし、一般の設計者は、まだまだリマンに興味がないし、そういった設計者にどうやってリマン設計、広く言えばエコデザインを具体的にやってもらうかが大きな課題である。
 問題の1つは、世の中にはリマン設計のためのガイドラインが掃いて捨てるほどあるのだが、抽象的過ぎて、エコデザインを知らない、実際のリマンの工程を知らない設計者にとっては、どうすりゃいいのよということになる。例えば典型的なガイドラインに、「分解性、交換性を高めるために、製品をモジュール化せよ」というのがある。これだけだと設計者はどうすりゃいいのよとなるか、適当に想定して余り役に立たないモジュール化をしてしまうことになる。このガイドラインを設計対象の製品に合わせてより具体化してやって、「電子レンジでコア部品であるマグネトロン(という部品があります)を交換し易くするために、マグネトロン周りをモジュール化せよ」という形で示してやれば、設計者の納得性も上がり、設計しやすくなると考えた(実際には、産総研、パナソニック社との共同研究です)。

 そこで、掃いて捨てるほどあるリマン設計ガイドラインを集めてデータベース化し、設計対象製品の情報とそのリマン工程のシナリオ(何を残して、何を交換するか、それをどのような順番で作業するか)の情報を与えてやって、データベースから対象製品に適用可能なガイドラインを抽出し、それを上記の例のように具体化してやる方法を作れば良いと考えた訳である。こういうことをアルゴリズムを作ってやるもの大変だし、ルールベースでやるのもぐちゃぐちゃになるので、LLMに突っ込んで、簡単に答えが出たら良いと思って、やってみた(学生が)。最初は玉石混交で、見当外れの答えも多くて今ひとつだったのだが、あるとき急に性能が良くなった。それは、LLMエージェントという流行りの技術を学生が探してきて使ったからであった。
 一般に我々が対話的に使うChatGPTのようなものはプレインLLMというのに対し、LLMエージェントというのは、問題解決の手順を自分で計画し、それに従って自律的に行動し、情報を取り込んで、推論を行う仕組み、ということらしい。今回の場合は、設計ガイドラインデータベース、製品構造、リマン工程シナリオという3つのツールを与えて、この3つのツールを使って具体的なガイドラインを導出しなさいとLLMエージェントに指示すると、90%程度の正答率で具体的なガイドラインを導出できるようになった。推測だが(というか、本稿全体が推測なのだが)、問題解決の手順を明示的に処理して、問題を小さな問題に分割すると、それぞれの小問題をきちんと処理して、質の良い答えを出すようである。プレインLLMを使っていたときは、100個ある設計ガイドラインのうち30個ぐらいしか見ずにあとはサボるような振る舞いも多かった。
 この方法はいろいろ不思議なところもあって、リマン工程のシナリオをウソでも良いので詳しく書くと、例えば、型番○○-△△のロボットを使ってネジを自動で取ると書くと、より精度の高い具体的なガイドラインが返ってくる。LLMエージェントといえどもベースはLLMであって、私の粗い理解では、LLMというのは、文節の繋がりの確率についての超巨大なデータベースになっていて、確率の高い文節の繋がりを尤もらしく答えるだけなので、こういう、一般的なガイドラインという抽象的な記述に対して、関連する情報(与えた製品情報、リマン工程のシナリオ、LLMが持っている雑多な情報)を補完して、もしくは、関連付けて、より具体的な記述を作り出すことに向いているような気がする。

 一方、上手く行っていないのが、具体化の逆の作業で抽象化の作業である。この連載でも何回か触れているが、デジタル・トリプレット研究で、熟練者の作業プロセスを記録して、そういった記録を集めて、共通部分を抽出し、抽象化して、お手本である汎化プロセスモデルを作るという作業を、現在は人手で行っている。これをLLMで自動化できたら大変嬉しいのだが、なかなか上手く行かない。人間は知識を獲得するときに、無秩序にあらゆることを覚えるのは大変なので、分類することで構造化して覚える。生物には動物と植物があって、動物には哺乳類、は虫類、両生類、・・・がある、といういわゆる分類である。分類して、適切な抽象概念を作って名前を与える。ここでやりたい、プロセス記述の抽象化というのは、背後にこの構造化された知識が要る。分類の階層を上げることで抽象化が進むのである。
 一方で、思うにLLMは前述のように文節の繋がりの確率を持っているだけだとすると、こういう知識の構造化はやってないのではないかと思う。今度専門家に聞いてみたい。もちろん、構造化された知識を与えてこれを使って問題解決せよと指示することはこの研究の中でもやっているし、みんながやっていて、それで解決できることも多いが、根っこの所で噛み合っていない気がする。

この記事は、会員専用記事です。

会員になると、会員専用の記事もお読みいただけます。

DX・デジタル一覧に戻る