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サステナブルなモノづくりのために No.106

2026.01.07

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面倒くさいものを作り続ける

 2025年10月21日に、デンソー東京大学社会連携講座「AI技術を活用して持続発展する次世代モノづくりインフラの構築」キックオフシンポジウムというのをやった。
 2025年4月に、株式会社デンソーと筆者が兼担している東京大学大学院工学系研究科の人工物工学研究センターが共同で社会連携講座を立ち上げたのだが、方向性もそこそこ固まって来たし、お披露目をしましょうということで開催した。この社会連携講座(代表:太田順教授)(https://denso.fa.race.t.u-tokyo.ac.jp)は、「AI技術を活用して持続発展する次世代モノづくりインフラの構築」と長いタイトルがついているが、生産システムを対象として、生産管理、カイゼン、メンテナンスなどを統合的に管理するような「次世代生産システム運用基盤」を作りましょうというものである。
 技術的には、デジタルをフルに活用しながら、AIの最新技術も取り入れて、フレームワークは我々のデジタル・トリプレットでということで、セールスポイントは「汎用性」である。業種を超えた様々な生産システムに適用可能な情報システムの「基盤」を作ろうとしている。もしくは、(ちょっと逃げておくと)基盤を作るための技術を開発しようとしている。例えるならば、生産ラインの不具合を見るときに、ビデオを設置して、収録して、後で専門家がビデオを見て分析すれば、7つのムダを発見できるよね。というのをデジタルとAIを活用してずっと高級にしたらどんなものになるか、そんなイメージである。筆者の班はもちろんデジタル・トリプレットの担当で、熟練者のカイゼン作業のお手本(我々の言葉で、GPM (General Process Model)と呼ぶ)を作って、この講座で開発する様々なツールを活用しながら問題解決の道案内するということをやろうとしている。
 汎用性がキーワードになるとこれが意外と難しい。熟練者のお手本も特定の生産ライン、この連載でも何度も紹介している、人工物工学研究センター内にある「ラーニングファクトリー」を使って収集している。そうそう、これまでラーニングファクトリーは、主にデモぐらいしか活用してこなかったのだが、ようやくこのようにテストベッドとして活用する機会が増えてきた。この話はまた今度。
 このお手本を様々な生産システムに転用できるようにGPMを記述しようとするのだが、どうしてももとの収集したお手本の中にはその生産システム固有の場所、機器、状況が入って来てしまうので結構難しい。一般化し過ぎると、問題を発見する、情報を収集する、原因の仮説を立てる、仮説を評価する、原因を同定する、・・・といった形でほとんど情報量のない当たり前のものが出来上がってしまう。今、生産システムのモデルとある程度一般的に記述したGPMを組み合わせることで、上手いこと個々の生産システムに合わせたカイゼン支援が行えないか、学生が絶賛苦戦中である。
 話が脇に逸れたが、シンポジウムである。お陰様でオンラインを中心に200名以上の方に参加頂いた(最近、この手の催しをハイブリッドでやると3/4かそれ以上がオンライン参加になってしまって、会場はいつも寂しい)。勝因の1つは、早稲田大学の藤本隆宏先生に基調講演をお願いしたからであろう。先生にはこの社会連携講座について興味を持っていただいて基調講演をお引き受け頂いたのだが、様々にものづくりの未来の話をして頂いた。その中でも特に興味深かったのが、日本のものづくりが米中を代表とする世界の中で生き残る道があるかという話である(以下、先生の講演を聴いた筆者の理解であるし、妄想を膨らませている部分もあるので、文責は全て筆者にある)。
 例えば、中国は製造業に関わる人口が3億人居るのに対して、日本は1,000万人しかいない。これじゃ量でもコストでも太刀打ちできる訳がない。そこで先生が出した勝ち筋が「面倒くさいものを作る」ということであった。作るのが面倒くさくて、合理的にいえば割りに合わないもの、新規参入が難しい(もしくは、バカバカしい)もの。半導体製造装置がそうかもしれないし、(先日久々に工場見学に行ったのだが)自動車のワイヤーハーネスなんて典型的かもしれない。
 中国は、農村から都市部に流入した若者が主たる労働力であるし、アメリカも移民(これがどうなってしまうのだろう?)がそれである。そうすると、以心伝心、図面の深読み、すり合わせなどあり得ず、マニュアルに書いてあるとおり、それ以上でもそれ以下でもないものづくりになるので、難しい、面倒くさいものづくりはできないし、そこには近づかないというのが結論である。だからこそ藤本先生が昔から言われているパソコンであり、最近のEVの生産が中国で盛んということになる。
 マニュアル化できるものづくりというのは自動化しやすい。だからこそ、中国は規模にものを言わせて、大規模な無人化工場を作る。別の人が言っていたのは、中国の工場は人を大事にしない自動化であって、日本のそれは人を大切にする自動化だそうである。中国で工場に人型ロボットを入れるというのが流行っているが、それが本当に必要なのかというのは大いに疑問であるが、常に最新の技術を使いながら、規模と開発速度で他の追従を許さないというのが中国のものづくりなのであろう。
 それに対して、日本の技術者は高いレベルを維持しており(例えば、高専出身者が多い)、そういった人の技術力、判断力を使ってしか作れないものづくりに行くべきという話であった。筆者の担当であるデジタル・トリプレットもそういう、人のややこしい、面倒くさい判断を形式知化したいと思っている。
 もしかしたら、形式知化したとしてもそれを使いこなすためには結構リテラシーが必要であって、誰にでも使いこなせるという訳ではないのかもしれない。こうなってくると、どこまで形式知化したらどのレベルの人が使えるようになるのかという際限の無い課題を扱わなければならなくなるのかもしれない。面倒くさいものを作ることを研究対象にするのはいろいろ面倒くさいのかもしれない。

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