デジタル・トリプレット(D3)の近況報告

本連載は、ご存知の通り、サーキュラー・エコノミー(CE)とデジタル・トリプレット(D3)を二枚看板にしていて、今回はD3の方の最近思ったことを書く。CEの方も、改正資源有効利用促進法が今年の4月から施行される予定で、その準備の会議がいろいろあるのだが、なぜか今ひとつ印象に残らない。なので今回はD3の方を。
まず1つは、以前にも本連載に少し書いたが、日経BPと前回書いた人工物工学研究センターのデンソー社会連携講座が組んで社会人講座「製造業コア人材育成『デジタルツイン実践講座』」をやっている。2025年秋にも実施した。
これは、デンソーのLean Automationをバッチリ学べるし、生産ラインシミュレーションを活用したデジタル・ツインも、D3も身につくし、内容は素晴らしいのであるが、参加者集めに苦戦している。料金が高いということもあるのだろうが、昨今の生成AIの大ブームで、デジタル・ツインに誰も興味を持ってくれないと担当者はいうのである。
そういう問題ではなく、最近流行りのPhysical AIにしても、まずは生産システムのデジタル化があってからの生成AIの活用だろうし、この講座を受講すれば、どこで生成AIを活用すれば良いかの勘所が分かるのに・・・。それを一言で表すのが難しい。D3だと余りにも誰も知らないのでデジタル・ツインを看板にということなのだが・・・。流行り言葉の威力はすさまじい。何でも飲み込んでしまう。
という愚痴を書きたかったのではなくて、この講座の中のD3演習のことである。演習は、レクサーリサーチが考えてくれた、サンドイッチの製造工程を模擬した生産システムのシミュレータを使って、資本を投下して最適化するという課題を解く。目的関数も自分達で考えろというが面白い。例えば、資本を沢山投下して利益を最大化するとか、限られた投資の中で効率を最大化するとか。
今回は2班で実施したのだが、解き方が見事に全く違うのが面白かった。D3で問題解決プロセスを明示的に記述するので、それがはっきりとわかる。ネタばらしするのも何なのでぼやかしていうと、片方は、ボトルネックを見つけてそれを潰して行くというボトムアップなアプローチをとり、もう一方は、まずは制約を忘れて限界値を見つけて、そこから制約を考えて現実解に近づけて行くというアプローチを取っていた。各班で議論した結果、たまたま、全く違うアプローチになっただけではあるが、問題解決プロセスを明記することの効果を実感できた。参加者もD3の効用を実感してくれた。
もう一つのD3の近況報告は、これも以前、本連載で紹介した人工物工学研究センターでやっているD3実践研究会のことである。
この研究会は、D3に興味を持つ企業や研究機関が集まってきて、D3はもちろん柱ではあるのだが、ものづくりのデジタル化、日本型ものづくりの特徴など、かなり幅広に議論している。当初の想定は、製造業の方々が集まるのではと思っていたのだが、製造業、つまり現場を持っている企業だけではなく、いわゆる製造系コンサルの人達がいろいろ集まって来た。日本のものづくりという意味では共通のフィールドなのだが、メーカーとコンサルというちょっと違う視点の人達が混じり合って結構良い議論ができる場になっている(いつも書いている気がするが、いつでも研究会参加者募集中です)。
この研究会での最近のトピックと言えば、D3の実用化が進んでいることである。個々の説明はまたの機会に譲るとして、その概要だけ紹介すると・・・。まず、荏原製作所が「開発ナビ」を開発し、もうすぐ(?)社内業務で活用するようになる。これは、D3の考え方をベースにした、製品設計・開発のプロセスを支援する計算機環境である。D3の視点で、設計開発プロセスを分析しそれに基づいて作られていて、様々なソフトウェアや熟練者のノウハウを活用しながら、設計開発プロセスを支援する。このプロジェクトはまさに、D3実践研究会の中でのメーカーとコンサルが連携して実施されている。
ダイキン工業でも、工場内の生産設備保全のためのアセットマネジメントシステムを構築して、社内展開している。ここでは、完全自動化ではなく人を支援する、設備保全の結果をフィードバックして進化し続ける仕組みを持つという点で、D3の考え方を取り入れている。
さらには、レクサー・リサーチが、Collective Wisdom Initiativeというのを推進している。この中でもD3の考え方を取り入れて、様々な分野で熟練者の問題解決のためのプロセス知を実際に集めている。このInitiativeの中で、D3の記法で問題解決プロセスを記述すると、様々なソフトウェア部品を活用しながら、ローコード/ノーコードで、その手順で実施してくれる支援システムを作ってくれる仕組みを開発している。これは、Engineering Navigation Systemという名前で、レクサーと我々の研究室で以前共同研究で作った考え方をベースにしているのだが、さすがプロのプログラマーが作っているだけのことがあって、かなり実用的なシステムに進化している。
という感じでD3の実用化が進んでいるのであるが、前半の社会人講座の所でも書いたが、何と言ってもD3の知名度が低すぎるというのが我々の悩みである。全然違う文脈で海外でもDigital Tripletという言葉を使う人達がチラホラ現れたりしている。
ということで、とりあえずはD3実践研究会でD3の知名度を上げるためのシンポジウムを今年4月14日午後にハイブリッドで開催する。人工物工学研究センターのHPで告知しますので、是非ご参加下さい。
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